「コンテンツと歴史」に向けて その2

その2です。毎回、何を書くか全く考えずにキーボードを打ち始めるので大変です。面倒とも言い替えることも可能。今度の例会は7月7日(日)に開催されますので、ぜひ、ご参加ください。

さて、その例会のタイトルは「コンテンツと歴史」ですが、取り上げるテーマの一つに「歴史ファン」が挙げられます。従来の歴史学では、作品を受容するファンを取り上げる研究は皆無と言っても良い状況であったかもしれません。例えば、司馬遼太郎や松本清張、中里介山、島崎藤村…と様々な作家を取り上げ、その思想について考察するというのが、比較的オーソドックスな研究と言えるでしょう。それでもナラティブな研究を行うこと自体、歴史学内部においては先進的な状況であったと捉えることも可能です。

しかし、そのような歴史学の研究状況と相反するように「歴史ファン」の動きは様々な変容を見せています。藤本由香里さんが書かれているように『ベルサイユのばら』の連載に対して編集側から「女子供に歴史物は受けない」と反対されたと言います(藤本由香里「「女たちは歴史が嫌い」か?-少女マンガの歴史ものを中心に-」長野ひろ子・姫岡とし子編『歴史教育とジェンダ- ― 教科書からサブカルチャ-まで』青弓社、2011)。もちろん、その後の大ヒットや現在の「歴女」の存在などを考えれば、検討違いであることは間違いないでしょう。藤本さんが書かれているように、これまで語られてきた「歴史」とされるものが男性主体であるがゆえに女性主体の物語を作る場合、史実から離れる必要があった、裏返せば男性が描く、男性に向けた物語は常に史実を意識する必要があったわけです。しかし、そのなかにおいて「戦国BASARA」のような惹きつけるコンテンツが登場してくる土壌が生成されたと考えることは可能です。

では、「歴女」という人々はどのような趣味嗜好を持っているのか、という点に着目されたのが、今回の例会で発表される堀内淳一さんです。既に『コンテンツ文化史研究』第6号にて「歴史コンテンツの受容と消費者の意識 ―「新選組」コンテンツに関する調査報告―」を発表されています。アンケート結果を通じて、「歴女」とされる人々について詳細に考察されております。論文は一回の調査結果になりますが、その後もアンケート調査を続けられており、例会発表ではより総体的な発表になると思います。

歴史学のナラティヴ―民衆史研究とその周辺

歴史教育とジェンダー―教科書からサブカルチャーまで (青弓社ライブラリー)

ベルサイユのばら 1 (集英社文庫)

戦国BASARA HD Collection

「コンテンツと歴史」に向けて その1

まさかの今年初のブログ更新になります。忘れていたわけではありませんが、一人で編集・研究・広報と動かしているとブログ更新にまで、なかなかたどり着けませんね。

さておき、既に告知が出されているように今度の7月7日(日)に今年度の第1回例会が開催されます。タイトルは「コンテンツと歴史」。誰も言及しないので、ここに書いておきますと、チラシは「歴史とコンテンツ」になっておりますが、並列ですので、どちらでも良いです。

「歴史」を考える際、決して無視できないのが、漫画・アニメ・ゲーム・映画・小説等々のコンテンツを中心としたフィクションをどのように考察していくのか、という点ではないでしょうか。コンテンツ文化史学会では、とっくの昔にこのような観点から例会や大会を開催していてもおかしくはないのですが、実は初めてのアプローチになります。取り上げるのが遅くなったのは、既に先行して存在する歴史学の小難しさが確実に存在し、且つ、史実か史実ではないかという二項的な価値観に落し込まれる可能性が大いに存在しえたからなのかもしれません。ただ、そのようなことを考えているのは私だけかもしれません。私は頭が悪いので歴史学とか何を言っているのか全然理解できませんし。その昔、「歴史」は「素材」ではないし、「消費」される対象ですらないと歴史学の某国立大教授に言われたことがあります。未だに何を言っているのか私には分かりません。

さて、「歴史」を意識するのは、どのような時か、ということを考えますと、例えば写真家の港千尋氏が『芸術回帰論』(平凡社新書、2012)の「歴史のイメージ」にて挙げているのが、映画であり、何より写真になります。確かに日本においては歴史的にも日清日論戦争時には大量の写真帖が作成されました。それ以前の西南戦争時とのメディアの違いは写真機および技術の発達と連動していると思います。この点は災害時におけるメディア報道を比べても同様でしょう(北原糸子『メディア環境の近代化 災害写真を中心に』御茶の水書房、2012)。記録から記憶へ、そして「歴史」へと昇華されうるわけですが、ここにモニュメントやランドマークも絡まりながらイメージの形成が行われていくことになります(羽賀祥二『史跡論』名古屋大学出版会、1998)。さらに言えば近代化遺産や、それに伴うツーリズム(ヘリテージツーリズム)も考えるべき点かもしれません。

ただし、これらに関しては常に事実を意識しながら、史実とされるものへと至るような気がしますが、今回の例会にて取り上げようとしているのは別のアプローチになります。「歴史」が描かれるフィクションをどのように捉えるべきか、という点です。

芸術回帰論 (平凡社新書)

メディア環境の近代化―災害写真を中心に (神奈川大学21世紀COE研究成果叢書―神奈川大学評論ブックレット)

史蹟論―19世紀日本の地域社会と歴史意識

コンテンツ文化史学会2013年第1回例会「コンテンツと歴史」のお知らせ

コンテンツ文化史学会では、来る7月7日(日)に2013年第1回例会「コンテンツと歴史」を開催いたします。参加ご希望の方はお手数ですが参加申込フォームよりお申込みください。

・コンテンツ文化史学会2013年第1回例会「コンテンツと歴史」

・概要

歴史学において史実かどうかという二項的な議論に陥る傾向にある媒体として小説や漫画、ゲーム、アニメ、映画などのコンテンツをあげることができる。「実証主義」とされる歴史学との相対化は常に意識されうる点であるが、本学会では「歴史」がどのように表現・消費されているのかを検討し、研究としてどのように捉えるのかを考えるために「コンテンツと歴史」として例会を開催する。
新撰組の「聖地」の一つとして挙げられる日野にある新撰組ふるさと歴史館の学芸員である松下尚氏には館の取り組みをもとに、施設と歴史ファンとの関係性についてお話いただく。「歴女」の調査活動を行っている堀内淳一氏には、詳細なデータから、これまで曖昧であった「歴女」イメージについてお話いただく。『HELLSING』、『朝霧の巫女』、『ドリフターズ』、『ナポレオン -獅子の時代-』など「歴史」に関する作品を多く発行している少年画報社にて編集として活動されている筆谷芳行氏には、編集側から見た漫画表現についてお話いただく。以上のように博物館・歴史ファン・出版社と様々な角度から「歴史」について検討を行う。活発な議論を期待する(玉井建也)。

・日時:

7月7日(日) 12時半開場、13時開始

・場所:

芝浦工業大学・豊洲キャンパス交流棟401号室
http://www.shibaura-it.ac.jp/about/campus_toyosu.html

・参加費:

500円(会員は無料)

・参加申込ページ

http://www.contentshistory.org/event_entry/
当日参加につきましては申込の状況に応じアナウンスさせていただきますので、こまめに学会ウェブサイトをご確認くださいますよう、お願い申し上げます。なお終了後に懇親会開催を予定しております。こちらもあわせてご参加ください。

・司会:

吉田正高 (東北芸術工科大学)

・発表者:

松下尚(新撰組ふるさと歴史館)
堀内淳一(学習院大学)
筆谷芳行(少年画報社編集)
吉田正高(東北芸術工科大学)

・タイムスケジュール

13:00-13:10 趣旨説明
13:10-13:50 第一報告(松下報告)
13:50-14:00 休憩
14:00-14:40 第二報告(堀内報告)
14:40-15:20 対談(筆谷・吉田)「漫画における「歴史」表現」(仮)
15:20-15:30 休憩
15:30-16:30 総合討論